ギャン・バギャム・ソルドン

一打粉砕に怒喝の心力を込め、万物を叩き割る剛剣の刃を生み出さん

ラブライブのシンクロについて考える

ラブライブのライブの特徴として、しばしば「シンクロパフォーマンス」というのが挙げられる。特にこれはメディアから取り上げられる場合に多く使われる表現で、バックスクリーンに映し出されるアニメ映像とキャストのダンスパフォーマンスが一致する事を指していると思われる。確かにそれはラブライブの謳うシンクロの一つである事に違いないが、ラブライブの見せるシンクロが「アニメ映像とキャストの動作の一致」だけかと言われたら、些か疑問である。少なくとも私が見てきたラブライブのシンクロはそれだけではなかった。ラブライブのシンクロを端的に、一言で言い表すことは出来ないが、私の見聞きしてきたシンクロについて幾つかを挙げてここに書き残しておきたい。

 

・μ's の見せたシンクロ

 2015年12月04日、μ's は日テレの音楽番組であるミュージックステーションに出演した。当時の私はライブライブのことを全くと言っていい程知らなかった為、後からこの番組で披露された曲が『KiRa-KiRa Sensation!』だという事を知りかなり驚いた覚えがある。というのも、アニメの名前を背負ってTVのステージに立つならば、そのアニメの顔とも呼べるOP曲を披露するのが一般的だと思っていたからだ*1。国民的音楽番組のステージでアニメの挿入歌を歌い上げるその豪胆さにも驚かされたが、一番驚かされたのはそこにあったTVアニメとのシンクロだった。μ's はあの場所で『KiRa-KiRa Sensation!』を歌唱することで、そこでの2分間をMステではなくラブライブの決勝戦にしてしまった。これは強いて言うなら「現実世界とアニメの世界」のシンクロとも言える。そこで歌われた曲の歌詞に「みんなの想いが導いた場所なんだ」がある何て流石に出来過ぎじゃないだろうか。

こと μ's に於いては「現実世界とアニメの世界」のシンクロの印象が今でも強い。劇場版ラブライブ!で描かれた「人気絶頂の中だが、私たちはそれでも μ's を辞める」という彼女たちの選択と「μ's Final LoveLive!」を最後に活動を一度休止したキャストの活動がどういう訳かシンクロしたことは強烈な体験だった筈だ。アニメで描かれた物語に追随するかのように現実が追いついていく様は、ラブライブの歴史10年を振り返ってもこの時だけだったのではないだろうか。μ's の巻き起こした旋風が今となっては伝説と語り継がれるのも頷ける。

 

Aqours の見せたシンクロ

Aqours のシンクロパフォーマンスを語る際に、Aqours1stライブの「想いよひとつになれ」と、Aqours3rdライブの「MIRACLE WAVE」の2つは避けては通れない。特に1stライブ2日目の「想いよひとつになれ」は体験としては諸刃の剣のようなもので、感動したと同時にトラウマを抱えた人も居ると思う*2。あの日あの瞬間の逢田梨香子さんの身に何が起こっていたのか、あの極限状態の中でピアノを弾いていた5分間は「キャラとキャストのシンクロ」ではなく「憑依」と表現するのが正しいのではないかと今では感じる。逢田さんの内に眠る桜内梨子というキャラクターがあそこに居て、逢田さんの代わりにピアノを弾いたとしか思えないのだ*3。キャストとキャラクターの姿を重ねるのではなく、あの場所でキャストとキャラクターが一つとなっていたと感じたのは、後にも先にもこの時だけだった。

ラブライブサンシャインのアニメで描かれたことを意地でも現実に起こそうとする姿勢には毎度驚かされてばかりだ。1stライブでピアノを弾いたサンシャインが3rdライブの MIRACLE WAVE でバク転をしない訳がないと薄々思っていた。伊波杏樹さんはそんな私の想像通り、素晴らしいバク転をやってのけた。当時はステージの上で起こった事に感動して考えが行き届かなかったが、思い返すとこの時見た景色も紛れもなく「シンクロ」だった。バク転を跳んでアニメで描かれたシーンと動作を一致させただけではなく、果南の生み出したダンスフォーメーションは無駄じゃなかったと証明する為、Aqoursとして予選を勝ち上がる為に跳んだ千歌の姿と、そんな千歌の為、Aqoursの為、みんなの為に跳んだ伊波さんの姿は、その内面、気持ちまでがシンクロしていた様に見えた。また千歌以外の以外の8人も、伊波さん以外の8人も共にステージの上でバク転の成功を祈っていたことも同じく「気持ちのシンクロ」と言えるだろう。

アニメと現実の動作や景色をシンクロさせる事はラブライブの魅力の一つであることに変わりは無い。WATER BLUE NEW WORLD のサビ前で衣装が変わるシーンや、キャストがアニメの映像とウィンクのタイミングまで一致させようとすることは、映像の細部まで再現しようとする執念と拘りを感じられるので好きだ。ただ、キャラとキャストが2人3脚で少しだけ違う道を歩ているからこそ、ふと見せる気持ちまで重なった瞬間にラブライブの謳う「シンクロパフォーマンス」の真髄を見た気になるのだ。

 

・虹ヶ咲の見せたシンクロ

虹ヶ咲の見せたシンクロで特に印象的だったのは虹ヶ咲1stライブのアンコールでの出来事だ。ここではアンコールで歌うメンバーを一人選ぶ為に、観客にアンコールを歌ってほしいメンバーのカラーのペンライトを灯すくだりがあった。当時は現地でライブを見ていて唐突な出来事に笑っていたが、思い返すとスクスタ第2章第10話前半の物語を、誰か一人を選ぶことを重んじてきた虹ヶ咲の歴史を、有無を言わせずに身体に叩き込んだ物凄い体験だった。観客はこの行為を通してスクスタの主人公である「あなた」の一人を選ぶ葛藤を追体験し、私達は一人の観客から「あなた」となっていく。強いて言えば「物語の主人公と自分自身」がシンクロしていく。特に1日目では、アンコール後の挨拶で「皆さんに」を「あなたに」と明確に言い換えたシーンがあり、大西さんのこの言葉に今でもうるうるきてしまう。

虹ヶ咲のシンクロについて、もう一つ語らねばならないのは大西亜玖璃という存在だろう。これも同様にキャラクターとキャストのシンクロに他ならないが、目には見えないシンクロがここにはある。記憶に強く残っているのは2019年3月に行われた校内MFで披露された夢への一歩のワンシーンだ。Dメロから落ちサビにかけて歌いながら涙ぐむ様子が窺えたが、最後には笑顔で歌いきって会場を沸かせた姿*4に涙した者も少なくない。私は大西さんのこの姿に、時に弱々しく「私がステージに立てるのはあなたが居るから」と頻りに伝えてくる上原歩夢ちゃんのキャラクターを重ねてしまう。この人以外に上原歩夢を演じることは不可能だと思わせる力がこの夢への一歩にあった。

 また重ねて書くべきは「キャラクターが歌に込めた思いとキャストの人生の一幕」がシンクロしていることだ。夢への一歩については過去の自分の記事の一説を下に引用するので軽く目を通してほしい。*5

段差もなく転んだり マップを見ても迷ったり 中々前に進まない 人生って大変だ。『夢への一歩』の一節ですが、私にはどうしてもこのブレーズが歩夢ちゃんではなく大西さんのことを歌っている気がしてなりません。本人の天然にも見える性格が私にそう思わせているのもありますが、中々前に進まない という言葉は、アイドルでありながら非選抜メンバーでライブをしない期間が長く、日の目を見ることの無かった大西さんが歌うと途端に説得力が生まれます。そして何より、この人がラブライブ!と出会い好きになり、アイドルを卒業して声優になって 諦めなければ 夢は逃げない と歌うことには大きな意味が、リアリティがあると思います。
# 虹ヶ咲のキャストについて語る記事 -AZUNA編- より引用

更に1stライブで披露された開花宣言では2番の「道端に咲く 私を見つけた人が 少しだけ幸せになれるように 咲き誇れ」の部分を歌唱しながら再び涙ぐむ姿が見られた。そしてその後のMCではこの歌詞に並々ならぬ思いがあることが語られた*6。芸能活動を始めて一人また一人と自分のことを見てくれる人が増えていったこと、そんな中でもやりたいことが出来ない時期があったこと、今こうして上原歩夢役大西亜玖璃として歌を届けられること、この一節に誰よりも思いを込める為に彼女の今まで歩んできた道があったのではないかと錯覚させる程のシンクロがそこにはあった。やはりこの人を措いて他に上原歩夢を演じられる人は居ないと再認識した出来事だった。

 

・最後に*7

ラブライブのファンがこのコンテンツのシンクロを語る際、アニメの物語やキャスト、延いてはコンテンツの歴史までを踏まえてシンクロを語るので、メディアが大衆向けに記事を出す時に「アニメ映像とキャストの動作の一致」という見ただけで分かる特徴に着目するのは必然とも言えることが分かった。だからメディアを悪く言うのはお門違いかもしれない。ただ、ラブライブを好きな私達だけでもラブライブのシンクロはどういうものなのかを少しでも理解していたい。

 

*1:事実、その年の紅白歌合戦ではOP曲である『それは僕たちの奇跡』を歌唱している。

*2:ちなみに私は虹ヶ咲3rdライブで矢野妃菜喜さんがピアノの前に座った瞬間に息が止まりました。

*3:本人曰く、この瞬間のことは余り覚えていないという。

*4:メイキング映像ではこの状況をステージ袖から見ていた楠木ともりさんの目に涙が浮かぶ姿があり、校内MFを語る上では外せないシーンとなっている。

*5:

*6:最近知ったが、大西さんがX21時代に書いた最後のブログには「私を見つけてくれてありがとうございました」という記述がある。

*7:Liella! のキャスティングも、コスプレ好きな可可ちゃんにLiyuuを抜擢する等シンクロを意識したものになっているが、まだその意図を図りかねている為この記事では言及しない。